☑️ FSBがG20金融改革の実施状況レビュー第2弾を公表
☑️ 各国の法制度に加えFSB自身の勧告策定過程も実施の障害と指摘
☑️ 優先順位付けなど6分野の改善を提言、監視手法は2027年に検証
金融安定理事会(FSB)は2026年10月14日、「G20 Implementation Monitoring Review: 2026 report」を公表しました。2008年の世界金融危機後に進められた国際金融改革の実施が国・地域によって不均一となっている原因を分析し、法制度や市場構造など各国固有の事情が主因とする一方、FSB自身の政策勧告の策定・起草・提示方法にも、実施を難しくしてきた要因があると指摘しています。
報告書は、政策課題の優先順位付けや勧告文書の標準化など6分野で改善を提言しました。個別の金融規制を直ちに変更するものではなく、国際的な政策勧告が各国で実施されやすくなるよう、FSBの政策形成手順を見直す内容です。
改革の進展にばらつき、各国事情だけでなく勧告の作り方も検証
今回の報告書は、G20の要請による「Implementation Monitoring Review(IMR)」の第2段階に当たります。FSB元議長で米連邦準備制度理事会(FRB)の銀行監督担当副議長を務めたRandal K. Quarles氏が、作業グループの議長を務めています。
2025年の第1段階では、バーゼルIII、巨大金融機関の破綻処理、ノンバンク金融仲介、店頭デリバティブ、暗号資産などを含むG20金融改革の実施状況を調べました。金融危機後の改革が世界の金融システムの強靭性を大きく高めた一方、近年は実施の進展が懸念すべき水準で減速し、将来のショックへの耐性を弱めかねないと評価していました。
2026年は米国のG20議長国としての要請を受け、FSBの政策勧告の作り方自体が実施結果に及ぼす影響を調べています。対象はFSB自身の政策勧告の策定過程であり、第1段階で扱ったすべての国際基準設定主体の勧告を直接検証するものではありません。
報告書は、実施状況の違いを左右する最大の要因として、各国の法制度、市場構造、政治的な対応能力を挙げています。ただし、勧告を作る際にこうした制約を十分考慮していなかった事例もあり、政策形成過程の改善が実施を進めるための一つの手段になると結論付けました。
調査では、FSBの現職・元幹部18人への聞き取り、勧告文書の形式や実施要件の分析、常設委員会メンバーへの調査、国際基準設定主体の手続きとの比較などを実施しました。
FSBの勧告は法的拘束力を持たず、実施には各国の対応が必要
FSBの活動は、金融システムの脆弱性の評価、政策勧告の策定、実施状況の監視という3段階で構成されています。脆弱性の評価を担うのがSCAV、規制・監督政策の策定を主に担うのがSRC、合意した政策や国際基準の実施状況を監視するのがSCSIです。金融機関の破綻処理などについては、破綻処理運営委員会(ReSG)も政策策定を担っています。
FSBの勧告やその策定活動は、それ自体が法的拘束力や法的権利・義務を生むものではありません。報告書が問題視したのは、各国で具体化する必要がある勧告について、その内容や実施上の期待事項が分かりにくかったり、策定時の検討が十分ではなかったりした点です。
FSBでは、勧告ごとに作業部会などが策定手順を組み立てる余地が大きく、異なる課題に柔軟に対応できる一方、手順の質が個々の作業体制に左右され、過去の教訓が次の政策策定に十分引き継がれない問題があったとしています。
6分野の改善を提言、初期段階では詳細規定より原則を重視
報告書が示した改善の方向性は次の6分野です。
- 政策策定から実施監視までの目安を設定:新たな勧告の検討を始める時点で、策定の委託から実施状況の監視開始までの目安となる日程を示します。すべての条件が同じなら、期間は可能な限り短くする考え方です。
- 新規案件の優先順位を明確化:新たな勧告の提案を年次作業計画の審議時に一覧できる文書に集約します。個々の提案では、対処する脆弱性と根拠、既存政策で対応できない理由、既存規制との関係、リスクに対して生じる負担などを整理し、監督実務の知見も反映します。
- 原則と詳細規定を使い分け:脆弱性の実態がまだ十分に分からない初期段階では、具体的な手順を細かく指定するより、高水準の原則を基本とします。理解が深まれば詳細化し、深刻で差し迫ったリスクや十分に解明された問題には、初めから具体的な勧告を使用する余地を残します。
- 政策形成の早い段階から対話を拡充:有用で緊急性が高くない場合には、勧告案が固まる前から一般の関係者や新興市場国・発展途上国の当局の意見を聞き、実施上の障害を把握します。採用しなかった重要な代替案については理由も説明し、実施状況を監視できる勧告かどうかをSCSIと書面で協議します。
- 勧告文書の形式・表現を標準化:原則、勧告、ガイダンスなどの文書類型と各類型に伴う実施上の期待事項を定義し、FSBの勧告をまとめて参照できる文書集を整備します。新規・変更後の勧告を反映し、既存文書の収録も検討します。
- 共通の策定手順を文書化:勧告を作る標準的な手順を文書化し、FSBの手続き指針に組み込みます。ただし、緊急時などには通常の手順から外れることを認め、案件の性質に応じた柔軟性を残します。
FSBは、分野横断的、国境を越える、または金融システム全体に影響する脆弱性に政策形成の重点を置くべきだとしています。暗号資産やオペレーショナル・レジリエンスなど、問題の規模がまだ明確ではない新しい領域では、規制を早く細かく定めすぎることと、危機が顕在化するまで対応しないことの両方に課題があると説明しています。
「実施不要」とした文書を評価に使用した事例も
文書の標準化を求める背景には、FSBが過去に出してきた勧告の形式や表現の不統一があります。報告書によると、実施期限を記した文書がある一方、実施状況の監視を始める時期だけを示すものや、実施について何も記さない文書も存在しました。
一部では、加盟国・地域に実施を求めないと説明した文書について、後のピアレビュー(相互審査)で各国の実務を評価する基準に用いたケースもあったとしています。報告書は、実施義務の有無や期待する対応を、文書の形式と用語から分かるようにする必要性を指摘しています。
また、基準設定主体との連携強化も挙げています。バーゼル銀行監督委員会(BCBS)の会合へのFSB事務局職員の参加方法や、証券監督者国際機構(IOSCO)の金融安定関連グループへのオブザーバー参加などについて、機密事項への配慮を前提に調整を求めています。
クロスボーダー決済を担当する決済・市場インフラ委員会(CPMI)については、現時点で追加的な連携の仕組みは必要ないとしています。FSBとCPMIは、2027年に終了するG20クロスボーダー決済ロードマップですでに緊密に協力しており、2027年以降の優先事項を決める際に連携のあり方を改めて検討することが適切になると説明しています。
規制・監督の現代化に関する8原則案も同日公表
FSBは10月14日、IMR報告書とは別に、金融当局向けの「Regulatory and Supervisory Modernisation Principles」市中協議報告書も公表しました。新しい脆弱性や技術、金融商品・サービス、経済環境の変化に対応しながら、規制・監督の有効性、効率性、リスクへの対応、一貫性、将来を見据えた性質を高めるための8つの高水準原則案を提示しています。
原則案は、金融安定と持続可能な経済成長が相互に支え合うこと、国際的に合意した基準を実施すること、各国・地域の法制度や事情と整合させること、金融システムの既存の強靭性を維持・向上させることを前提としています。
意見募集の締め切りは2027年1月8日で、最終報告書は同年上半期に公表される予定です。
一方、G20 Implementation Monitoring Reviewは2027年に第3段階へ進み、英国のG20議長国の下で、FSBが改革の実施状況をどのように追跡し、実施を促し、フォローアップするかを検証します。こちらの報告書も2027年上半期に提出される予定です。
発表日時: 2026年10月14日
関連URL: https://www.fsb.org/2026/10/g20-implementation-monitoring-review-2026-report/
