☑️ 金融庁が特定AMMを用いた金融機関の実証実験結果を公表
☑️ KYCトークンなどを活用しマネロン対策の有効性を確認
☑️ DEX開発における暗号資産交換業該当性などの法的論点を整理

国内の金融行政を管轄する金融庁は2026年3月13日、フィンテック企業や金融機関の技術検証を支援する「FinTech実証実験ハブ」の第10号案件に関する実験結果を公表しました。同ハブは、前例のない革新的な実証実験を行う際に生じがちな法的・実務的な懸念を払拭し、イノベーションを加速させる目的で設立されたスキームです。
本実験は、スマートコントラクトによって自動で取引価格を計算するAMM(Automated Market Maker)機能を利用したサービス提供において、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与(ML/FT)対策の有効性を検証したものです。実験は2025年6月から9月にかけて実施され、参加企業としてSBI VCトレード、ソニー銀行、大和証券グループ本社、野村ホールディングス、ビットバンク、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行、KPMGジャパンが名を連ねています。
金融機関参加によるAMM実証実験の全容
本人確認済アドレスとトークンの仕組み
本実証実験では、暗号資産や電子決済手段、電子記録移転有価証券表示権利等を模したトークンを使用し、金融機関による本人確認(KYC)が完了したアドレスのみが参加できる「特定AMM」環境を構築しました。特定AMMはブロックチェーン上に展開された後、開発者や第三者による改変が一切できない仕様となっています。これにより、プログラムの透明性と自動執行の確実性が担保されます。
実施手順として、まず金融機関の管理するアドレスをブロックチェーン上のスマートコントラクトに登録し、トークンの付与権限を設定しました。次に、暗号資産交換業者や第一種金融商品取引業者などの要件を満たす「仲介型金融機関」が、あらかじめ定められた条件をクリアしたAMMに対して、適格であることを示す認証トークンを付与します。
続いて、仲介型金融機関が顧客に対して厳格なKYCを実施した上で、顧客自らが秘密鍵を管理するアンホステッドウォレットに対し、KYC完了の証明となる「KYCトークン」を送付します。この基盤の上で、暗号資産等の発行登録を持つ「発行型金融機関」が、KYC済アドレス間でのみ移転可能な「移転制限付トークン」を発行します。顧客はこれらのトークンを用いて、特定AMMに対する流動性提供や、異なるトークン同士の交換(スワップ)を行うという流れで検証が進められました。
トークン制御による取引停止機能の確認
技術的な検証結果として、各種トークンの制御を通じて不正な取引を強制的に遮断する複数の機能が正常に動作することが確認されました。例えば、顧客にKYCトークンを付与した仲介型金融機関が、事後的なリスク検知に基づいて当該トークンを無効化、または一時停止した場合、顧客は移転制限付トークンの授受やAMMでの預け入れ・交換が即座にできなくなります。
また、KYCトークンに顧客個別のML/FTリスク評価に応じた有効期限を設定し、期限経過後に自動的に取引権限を失効させる仕組みも想定通りに機能しました。
さらに、特定AMMに付与した認証トークン自体を無効化することで、対象のAMMからのトークン移転を全面的に停止させる措置や、発行型金融機関が自ら発行した移転制限付トークンを直接無効化する機能も確認されています。これらの結果により、未登録の参加者やKYCを経ていないアドレスの排除に加え、事後的なリスク発生時の迅速な取引停止が技術的に実行可能であることが証明されました。
金融庁が示した法的解釈とリスク低減効果
DEXプロトコル開発の業該当性
実験結果を踏まえ、金融庁は法的論点に関する見解を整理しました。ブロックチェーン展開後に改変不可能なAMMの開発および展開行為について、本実験のように模したトークンを用いる場合は暗号資産交換業には該当しないとしています。
一方で、いわゆる分散型取引所(DEX)のプロトコルを開発・設置する行為については、システムを通じて利用者に暗号資産の交換などを可能にする性質上、一定の場合には暗号資産交換業に該当する余地があると指摘しました。この論点については、金融審議会の暗号資産制度に関するワーキング・グループにおいて議論が交わされており、技術的性質に合わせた過不足のない規制のあり方を、各国の規制動向も注視しながら継続して検討する方針を示しています。
ML/FTリスクを低減する具体的な措置
金融庁は、本実験で講じられた一連の措置が、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策に関するガイドラインで求められるリスク低減に作用しうると評価しました。具体的には以下の措置が有効とされています。
- 金融機関によるKYC実施と、アンホステッドウォレットへのKYCトークン送付
- KYCトークンへの有効期限設定および、リスク評価に応じた期限の短縮
- リスク増大時におけるKYCトークンの無効化を通じた移転停止
- AMMアドレスへの認証トークン付与と、リスク増大時の無効化による取引停止
- 移転制限付トークンを用いた、KYC済ウォレット間のみでの移転制限
- リスク評価に基づく移転制限付トークンの事後的な無効化措置
これらの措置を組み合わせることで、不適切なアドレスへのトークン流出を防ぎ、分散型金融の技術を用いながらも金融機関と同等のリスク管理体制が構築可能になるとしています。
AMM事業化に向けた残存課題
今後の検討が求められる8つの論点
本実証実験で検証された項目以外にも、AMMを活用した金融事業を本格展開する上で検討すべき複数の法的論点が明らかになっています。金融庁は、以下の各行為が第一種金融商品取引業、暗号資産交換業、または電子決済手段等取引業といった既存の金融規制の対象に該当するかどうかの精査が必要だとしています。
具体的には、AMM利用者による通常の暗号資産や電子決済手段のスワップ行為に加え、セキュリティトークンのスワップ行為が有価証券の売買に該当するかどうかが問われます。また、開発者などが一般ユーザー向けにAMMのユーザーインターフェース(UI)を提供する行為や、展開後にプログラムの改変が可能なAMMを設置する行為の業該当性も課題となります。
さらに、利用者による流動性プールへの流動性提供行為や、プールされる暗号資産の種類を選定するなど、AMMの実質的な運営に関与する行為についても法的な位置づけが問われます。
技術と既存資産の整合性という観点では、移転制限を付して新たに作成されたトークンと、裏付けとなる既存の暗号資産等との同一性が評価対象となります。同時に、パブリック型ブロックチェーン上でセキュリティトークンを取り扱う際に、金融商品取引業者に求められる内部管理態勢の構築や、AMM関連事業における銀行の役割が銀行法上の業務範囲として許容されるかといった点も、今後の重い検討課題として挙げられました。
今後の競争環境への影響
大手金融機関や証券会社が結集した本実証実験は、分散型金融(DeFi)の核となるAMM技術を、日本の厳格な金融規制のもとでいかに安全に社会実装するかを探る重要な一歩となりました。技術的にKYCと取引制限をブロックチェーン上で自動執行できることが実証されたことで、機関投資家や金融機関自身がパブリックブロックチェーン上の流動性プールに参入するハードルが下がる可能性があります。
一方で、DEXプロトコルの開発やUI提供、流動性提供行為そのものが暗号資産交換業などの規制対象となるリスクが明文化されたことは、今後のサービス設計に大きな制約をもたらす要因となります。既存の金融法制と自律分散型システムの間に横たわる法的なグレーゾーンをどうクリアするかが、日本における次世代デジタル資産市場の発展を左右する今後の焦点となりそうです。
発表日時: 2026年3月13日
関連URL: https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260313-02/20260313-02.html
